DIYにハマっている私に娘から子供(孫)用の椅子をDIYで作って欲しいと言うので、設計を行った。
椅子の用途は食卓で使うためで、2歳になって自分で座ることが出来るのが欲しいとのことだった。
設計にはAUTOCADのFusion 360を使い、数点のモデリングを行って、安全性、使い勝手などの評価を行った。
特に娘からの要望で、「ストッケの子供椅子」が気に入っているとのことから、この構造でのモデリングも行い比較して見た。
子供椅子の3D-CADによるモデリング
設計諸元
設計諸元としては、下記の通りである。
- 主に食卓テーブル(高さ72cm)にて使用する
- 子供の身長が90~140cmに対応するものとし、それぞれの身長での座面と足置き台高さが変更可能出来ること
- 材料は木材とし、ホームセンターなどで安価に手に入るものとする
- デザインおよび、安全性を考慮した設計とすること
- 堅牢でありながら、軽量で簡単に移動できること
Fusion 360によるモデリング
Fusion 360は個人非営利目的では無料で使用出来る3D-CADとして広く使われている。このCADを使って、下記子供用椅子のモデリングを数タイプ行った。
デザイン – その1
最初のモデリングを行ったのが、次の椅子である。
食卓テーブルで使う子供用椅子として、見た目に子供が高い位置に座ることになるので、少々不安定さを感じたり、転倒・落下などの危険を感じたりすることがある。
このデザインは3本脚を採用しているが、後方の脚の幅を広くすることで左右方向に対する剛性を高めるとともに、床面との接触長さを増し安定性を高めているが、子供が座面に立った時は危なく感じるかも知れない。
デザイン – その2
次に考案したのが、下のモデルである。ガラス板はテーブルの位置を示すために表示している。
このデザインでは4本脚を採用したため、シンプルかつ軽量感もあり、安定性も高い。しかしながら、前面横方向の剛性が劣っているように思える。
採用するには、デザインその1のように底面に板を入れる等の補強が必要である。
デザイン – その3
上記の2つのデザインを娘に提示したところ、娘からはストッケ(Stokke)トリップ トラップが気に入っているとのことであった。
ストッケとは、北欧のメーカーが考案した子供から大人まで使えるハイチェアのことで、30,000円もするが、結構人気があるようで、日本でもファンが多い。
そこで、このストッケのトリップトラップをモデリングして見たのが、次のデザインである。
このデザインは、2本の部材が鋭角に交差する構造が特徴で、斬新さがある反面、技術屋の目から見れば、強度面で多少の不安を感じるところである。
DIYで製作する場合、メーカーの製造設備と違って加工精度等に問題が出るケースが多いが、このような構造では、特に結合部の剛性を高める方法を検討する必要がある。
板同士の接合では、ダボ接合、ほぞ接合などがあるが、力のかかる部材の長期的な接合には向いていない。考えるとすれば、金属製ボルトなどを使った接合であるが、鋭角部分にかかる大きな曲げモーメントに対してこのようなボルト接合は一般的にあり得ない。
それで、補強を入れることを考え、次のデザインを考えた。
デザイン – その4
鋭角部にかかる曲げモーメントを回避するため、部材同士をピン接合にし、全体を三角形の構造とした。
このデザインでは、後方に柱材が入っており、安定感が増した反面、重量的にも重たくなったイメージがある。
強度的にはここまでの構造を必要としないので、次のように簡素化してみた。
デザイン – その5
そして、底辺の部材をなくし、柱材同士を片側2か所のピン接合とすることで、軽量化を図った。この構造なら荷重は4本の柱材に圧縮荷重として分散されるので、問題となるような曲げモーメントはかからない。
このデザインは、ストッケの設計思想は残し、DIYで製作する時のストッケの問題点である鋭角部での曲げモーメントを回避した構造となっている。
このデザインの良いところは、DIYとして非常に作り易いことで、安定性は勿論のこと、ワンバイ材を使うことで製作面での容易性、コスト的にも優れている点である。
子供椅子の製作準備
製作図への展開
3D-CADを使ってモデリングを行っているので、図面への展開は容易で、次のように出力された。
なお、座面高さ、および足置き台の高さを調節するための溝部分の寸法は、予め、人間工学で推奨されている「机の高さと椅子の高さの関係式」から計算し、下記のように決めた。(単位:mm)
調整段 | 対応身長 | 座面高さ | 足台高さ | 差尺 | 座面と |
1段目 | 900 | 555 | 330 | 165 | 225 |
2段目 | 1036 | 530 | 271 | 190 | 259 |
3段目 | 1173 | 505 | 212 | 215 | 293 |
4段目 | 1309 | 480 | 153 | 240 | 327 |
5段目 | 1445 | 455 | 94 | 265 | 361 |
3D-CADでモデリングをすると2次元の図面が自動展開されるが、製作上必要となる寸法は図面上で指定する必要がある。
DIYでは設計者=製作者なので、細かい寸法などは現物合わせで、省略しても構わない。しかしながら、製作時点で寸法の計算をしなくてもいいように、出来るだけ細かく入れて置くのがポイントである。
材料見積・購入手配
材料見積は以前に参考にした近くのホームセンター「西村ジョイ」の税抜き価格を示している。
No | 名称 | サイズ | 数量 | 材料 | 材料寸法 | 数量 | 税別 価格 | |
1 | 主柱 | 19Tx89Wx868L | 2 | 1x4材 | 19Tx89Wx1820L | 1 | 250 | SPF 材 |
2 | 支柱 | 19Tx64Wx776L | 2 | 1x4材 | 19Tx89Wx1820L | 1 | 250 | SPF 材 |
3 | 背もたれ | 15Tx130Wx434L | 1 | 集成材 | 15Tx300Wx1820L | 1 | 2,320 | 赤松集成材 |
4 | 座板 | 15Tx280Wx434L | 1 | |||||
5 | 足置き台 | 15Tx300Wx434L | 1 | |||||
6 | 補強板 | 15Tx64Wx434L | ||||||
7 | 通しボルト | W3/8x500L | 4本 | ユニクロめっき | W3/8x1000L | 2 | 136 | 寸切ボルト |
8 | 結合ボルト | W3/8x50L | 2本 | ユニクロめっき | W3/8x50L | 2 | 72 | 六角ボルト |
9 | ナット・ワッシャ | W3/8 | 10組 | ユニクロめっき | W3/8 | 10 | 170 | ナット・ワッシャ |
合計 金額 | ¥3,198 |
加工方法を事前検討
今回の加工は下記がポイントである。
- ワンバイ材の指定角度切り・・・丸ノコ加工。市販の勾配定規を使う
- 座板・足台調整用の溝切り・・・トリマー加工。下記角度可変治具を自作予定
- ほぞ切り・・・トリマー加工。下記角度可変治具を使う
- 座板・足置き台の面取り・・・トリマー加工
- 文字彫り・・・トリマー加工(トップベアリングパターンビット使用予定)
丸ノコ切断加工
今回は角度の付いた材料の切断が必要となり、ホームセンターでのカット直角以外が難しいので、家から電動丸ノコを持参した。
トリマー加工治具
加工には角度の付いたトリマー作業が多く、効率よく進めるため治具の製作が不可欠である。このため下記の可変角度治具を考案した。
製作について
製作については、別の記事(製作編)で紹介したいと思います。
まとめ
この記事では、子供用食卓椅子の設計編として、3D-CADを使って5通りのデザインを考えモデリングを行った。
市販の子供用食卓椅子は、同じような構造でも価格が4,000円から30,000円と幅が広く、選択に困ることが多いかと思われ、ついつい、高い方を選んでしまう傾向にあるのも事実であろう。
ここでは、独自の設計モデルを考案し、その安全性などを評価しながら、最終的に安全性の高い子供用食卓椅子を決定し、ワンバイ材と集成材で作ることにした。
製作工程は次回の記事にて詳細を紹介したい。